トーマス・M・ディッシュ/浅倉久志訳 『いさましいちびのトースター』 (ハヤカワ文庫SF)

いさましいちびのトースター (ハヤカワ文庫SF)

いさましいちびのトースター (ハヤカワ文庫SF)

夏別荘にだんなさまがやってこなくなってもうすぐ三年.取り残されたのは五台の電気器具,トースター,掃除機,ラジオ,電気毛布,卓上スタンド.少し古いけどまだまだ元気な彼らはだんなさまのもとを訪ねるべく別荘を飛び出した.森を抜け街を過ぎ,さまざまな困難も協力して切り抜ける電気器具たちの大冒険.
ということで今更ながら初読.ブレーメンの音楽隊の家電版.という言い方だと身も蓋もないけども.挫けたり励まし合ったり,各々の特徴を活かしたりしながら新しい世界を旅する電気器具たちの姿は押さえるべきを押さえたジュブナイルの態でおとなから子どもまで広い層に薦められる.そこにリスの夫婦とのやりとりやヒナギクの不器用で刹那的な求愛といったぴりっとしたスパイスが加えられる.主人を求めて別荘を離れ行動する電気器具と,それぞれの生きるべき場所を持っている人間・動物・植物の対照はいろいろな解釈が出来そう.ってか既にされているので私はパスしたい.上述通り,良質なジュブナイルとして素直に楽しみました.