神林長平 『プリズム』 (ハヤカワ文庫JA)

プリズム (ハヤカワ文庫JA)

プリズム (ハヤカワ文庫JA)

<ここはどこかな?>
「色たちが天界から降りてくるときの道じゃないかしら。中間界もどこかそのへんにあるはずよ」
<その宇宙に落っこちないように気をつけなくちゃね>
「あなたの世界なのに?」
<真空中を飛ぶようにはできていないもの。空気があっても無事に着陸できる自信はないよ。それに比べればここは天国さ。祈れば通じる。邪魔さえ入らなければ>
「祈って」
朱夏は言った。

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地上 3 万メートルに浮遊するスーパーコンピュータ・浮遊都市制御体は都市に住むすべてのひとを管理する.神のように万能と思われた浮遊体にも,しかし何らかの原因で感知されない・コミュニケーションの取れない人々が希に存在した.彼らは「幽霊」と呼ばれ,警察機構による排除の対象とされていた.
いちおう連作短編になるのかな.帯とあらすじからてっきりユートピア/ディストピア SF かと思いきや,多重に重なった世界が織りなす幻想小説だった.ある章ではコンピュータの支配する未来社会を,別の章では色に包まれる異世界を.時間,空間,思想,言葉,光,色,エトセトラを特徴的に美しく描くことで重なり合うそれぞれの世界を築き上げている.毛色のぜんぜん違うごった煮のような世界も,最終的にはひとつに収斂していく,その過程が美しすぎた.その収斂の思想は『火の鳥』に通じるものもあるように思ったがどうだろう.解説に言われているけれど,想いと言葉が完全に対立するものとして考えられるのが特に興味深い(ここは解説を読んでもらうと分かりやすいので私から付け加えることは特にない).とにかくすんげー面白く,また美しい物語でした.