岡田剛 『ヴコドラク』 (早川書房)

ヴコドラク (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)

ヴコドラク (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)

中国と台湾の政治的緩衝地帯として建造された人工島「新台湾」はアジアの金融センターとして急速に繁栄していたが,大都市に付きものの暗部もまた同時に抱えていた.激しい貧富の差,ドラッグ.そんな新台湾で一件の猟奇殺人事件が起こる.遺体を焼かれたうえに首を切断され,股の間に置かれたという凄惨なもの.捜査を開始した中国公安支局はまもなく「大きな犬を見た」という目撃者の証言を得る.
吸血鬼と狼のノワール.近未来の人工都市を舞台に,母を殺した吸血鬼への狼の復讐と,吸血鬼の長い孤独を描く.面白かったです.分かりやすく解説された吸血鬼の由来や狼の造形,帯やカバーにある近未来伝奇バイオレンスも良かったけれど,400 年を経て人格(?)が歪みまくった敵役の吸血鬼ウィンウィンがとにかく良すぎる.道中さんざんっぱら悪辣と不気味さを見せつけときながら,クライマックスに見せつけるのはずっと表に出せず歪んで腐った純情のなれの果て,という.ハードボイルドというか漢のロマンというか童貞臭というか,そういうのが大好きな自分にはお膳立ても含めてもうたまらんかった.主役側の恵雨やロビンもウィンウィンの前では霞んで見えた.