ウォーレン・フェイ/漆原敦子訳 『フラグメント 超進化生物の島』 (早川書房)

フラグメント超進化生物の島 (ハヤカワ・ノヴェルズ)

フラグメント超進化生物の島 (ハヤカワ・ノヴェルズ)

南太平洋に浮かぶ孤島,ヘンダース島.約二百年前の航海誌にわずかに名前が残っているだけのこの人跡未踏の島には,独自の進化を遂げた生態系が根付いていた.
進化したさまざまな節足動物が究極のガラパゴス的生態系を成す島で起こるバイオ・パニック・ホラー.タイトルの「フラグメント」はヘンダース島が約五億年前の超大陸パノティアの「破片」であることから.前半はヘンダース島の生物の生態系や解剖解説,巻末にはイラストや観察ノートなど,「鼻行類」をライトなエンターテイメント小説としてリライトしたような感じ.個体としての架空生物だけではなく生態系もよく考えられていて,単に不気味な造形だけではない面白さがある.
だんだん怪しくなってくるのはその後,喰われて死んだと思われていたクルーが実は生きていたというあたりから.島のある生物を守ろうとするネル博士たち(主人公側)の行動にはまったく納得がいかなかった.意思が疎通できるから助けるという,安いヒューマニズムを振りかざしているだけにしか見えない.自分の名声を守るためとはいえ,島の生物の危険性を訴えるサッチャー博士(憎まれ役)や軍人の行動のほうがよっぽど納得できるし肩を持ちたくなる.ってか NASACaltechホワイトハウスの天才たちが揃っているのになんでお前らそんなバカばっかなのかと.まあ様式美なんだろうけどもうちと考えて行動しろよ.
作者はこれがデビュー作.これまで書店員,ゲームソフトのライター,ハイテクおもちゃの開発など色々な仕事を経てきたそうな.悪くなかったんだけどこれ一冊で"クライトンの後継者"は安直過ぎだよなあ.