エドモンド・ハミルトン/安田均訳 『虚空の遺産』 (ハヤカワ文庫SF)

アメリカとソビエトの宇宙開発競争は月面基地建設まで及んでいた冷戦の時代.若き言語学者のロバート・フェアリーはスミスソニアンの招きによってワシントンへと向かっていたが,実際連れて行かれたのはニューメキシコのロケット打ち上げ基地だった.フェアリーに課せられた役目は,月面のガッサンディ・クレーターで見つかった先史の軍事基地に遺された言語の解読だったのだ.
人類の起源たるウル人のテクノロジーを求める宇宙の旅とその行き着く果てにあるもの.エンターテイメントの粋を短い尺に凝縮した,良い意味で通俗的なエンターテイメント SF てぇ感じでしょうか.銀の球形をした録音装置に込められたウル人の女の歌声にほのかなロマンチシズムを.頑固な軍人の横暴にはその後のカタルシスをお約束.分かりやすい仕掛けと,なおかつひとつひとつの章は短く切られているのであとちょっとと思ってめくっているうちに読まされてしまう.読み終わってみると物足りなさがないでもないけれど退屈はまったくしなかった.