山本弘 『地球移動作戦』 (早川書房)

地球移動作戦 (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)

地球移動作戦 (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)

データを読み上げるフランの声はかすれていた。
「地球の六〇〇倍以上の質量を持つ天体が……」ブレイドも声が震えるのを抑えられなかった。「地球からたった四〇万キロのところを通過する……?」

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人類が太陽系内すべての惑星へ到達していた西暦 2083 年.深宇宙探査船 DSS-01〈ファルケ〉が新天体 2075A の調査のために派遣された.観測の結果,ミラーマターで構成された見えない星が,24 年後に地球とニアミスするということが分かった.
第一部「発見」,第二部「対策」,第三部「接近」.「妖星ゴラス」に昨今の科学的・社会的トレンドや考証を交えた燃え萌えのハード SF.滅亡の危機を前にしながら,目の前の利害や思想の違いでまとまらない人類.多くの障害に見舞われるプロジェクト.熱い.パニックのさなかでトンデモ説を提唱・支持したがる大衆の描き方は,啓蒙的なのはまあ仕方ないと思うのだけど,そこだけ固くてユーモアが足りなかったような,少し肩に力入りすぎてるような気はした.
拡張現実に誰もが自分好みにカスタマイズした ACOM(人工意識コンパニオン)を持ち,バーチャルアイドルやカリスマ P の作った動画が世論を動かす時代描写は,なんというかひとことで楽しそうなものだった.それでいて現代と地続きで簡単に実現しうるのではないかと錯覚する未来像だった.細かいところで気になる部分がないでもなかったけど,こういった「未来像」も時代とともに今後どんどん更新されていくんだろうな.と.