円居挽 『丸太町ルヴォワール』 (講談社BOX)

丸太町ルヴォワール (講談社BOX)

丸太町ルヴォワール (講談社BOX)

「そういえばよ、銀河を駆ける叡山電車の伝説って知ってるか?」
「それは銀河鉄道みたいなものですか?」
叡山電車が天に向かって消えて行くっつう話だ。時々、人生に惑ったやつらが乗っちまうらしい。機会があったらこの謎も解いてくれ」
「それは構いませんが、この謎に詳しい人がいるんですか?」
「ああ、ここら辺に住んでるヨシキさんって人が調べてるらしい」
叡山電車の謎を追うヨシキさんですか。興味深い組み合わせですね」
「そうだろ。ちなみにその調査記録は『銀河叡山伝説』、通称『銀叡伝』と呼ばれてるんだ」

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三年前,京都岡崎のあるお屋敷の離れにて.怪我の静養のために滞在していた少年城坂論語は,"ルージュ"と名乗る謎の女性とほんの二時間ばかりの会話を交わす.どうやらそれが論語少年の初恋だったようで.それと同時刻,屋敷にいた論語の祖父が密かに息を引き取っていたことから話はややこしくなる.祖父はなぜ死んだのか,そして年齢も容姿も分からない謎の女性ルージュとは誰なのか.謎は双龍会で明らかにされる.
双龍会とは京の貴族に伝わる御霊会のひとつで,青龍(弁護人)と黄龍(検事)が言葉を弄して争う疑似裁判.言うなら京風『逆転裁判』だね.正式な裁判ではなく一種の娯楽であるというところが味噌で,確かな物証よりもハッタリと勢いがものを言う.おかげで意図的なのかどうかはともかく粗い印象もまた強いのだけれど,洒落の効いたテキストといくつも用意された細かい仕掛けのおかげで裁判の行方は二転三転.くるくる回る物語は読んでて素直に楽しい.過去に読んできた講談社BOX のなかでもいちばんミステリらしく,また誰にでも入りやすいミステリではないかと思う.京大卒の作者はこれが長篇デビュー作と言うことで,中盤で少しダレ気味だったり主観人物が一貫せず分かりにくいという目立つ欠点もあったのだけど,伸びる余地もまた大いにあると感じた.良かったです.