小林めぐみ 『回帰祭』 （ハヤカワ文庫JA）

回帰祭 (ハヤカワ文庫JA)

ははは、とアツは顔を引きつらせながら笑った。人が人を好きになるというのは、えらいストレスなのだと思い知らされる。ヒマリへの自分の感情すら持て余しているのに、他人のことまで気にしていられるか、というのが本音だ。

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極度の環境汚染によって生物の住めない惑星となった地球から，人類は避難船で三々五々の脱出を果たしていた．それから 300 年．過酷な環境の星に不時着していた避難船ダナルーは，生殖システムの不具合によって男女比が 9：1 となった船内で，独自の社会を構築していた．
16 歳になった男子は，環境回復事業のため地球へ回帰するか，船内に残るかの運命が決定づけられる．その少し前に出会った少年二人は少女に出会い，変なウナギに出会い，やがてこの社会のはらむひずみに気づいてゆく．地球を遠くに臨む巨大宇宙船を舞台にした，少年少女の冒険もの，かな．あっと驚くような仕掛けはないのだけれど，閉鎖した環境・社会や人物の成長をとても丁寧に描いているのが印象深い．特にアツ，ライカ，ヒマリの三人にウナギの教授といった登場人物たちは，誰も彼も愛嬌たっぷりで魅力的．懐かしいジュヴナイルを繰るような気持ちで，最後まで楽しく読みました．