卑影ムラサキ with 企画屋 『グリモア ──俺の脳内彼女日記──』 (幻狼ファンタジアノベルス)

グリモア―俺の脳内彼女日記 (幻狼ファンタジアノベルス)

グリモア―俺の脳内彼女日記 (幻狼ファンタジアノベルス)

……何かが起きるかもしれないけど、でも、この変化を受け入れなくては先がないんだ……。
そう自分に言い聞かせると、一気に扉を開いた。

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隠れオタクの高校生,小笠原勇雄.両親は借金を残して失踪し,家で一人暮らし.そこにある日突然現れた美少女は,勇雄がずっと書きためていた黒歴史ノートの理想の女の子星奈に何から何までそっくり.果たして妄想の産物かと思われた星奈は,ここは自分の家であり,勇雄こそが自分の生んだ幻覚だと主張する.互いが幻覚であると譲らないふたりは,それぞれの日常を送るべく町に出るが,その日常はふたりの記憶のいずれでもない,微妙にずれたものへと変わっていた.
「BALDR FORCE」や「BALDR SKY」で名を知られるサイバーパンクエロゲ作家卑影ムラサキ with 企画屋のオリジナル小説デビュー作.自分や周囲を認識することと,中二病的な妄想とが不可分になった時代(世代?)の,ゼロ年代 SF 風セカイ語り.このセカイは自分の信じたとおりのものなのか,それとも誰かの妄想の産物なのか? という不安を,ミステリチックに描いていく.このあたり前半は非常に丁寧,しかし後半の解決編に入るといきなり荒っぽくなってしまうのが残念.デウス・エクス・マキナ登場,的な.ただエロゲ出身作家にありがちなテキストの読みにくさがほとんどなく,素直に物語に没入出来るのは良かった.
それはそうと,自分だけの狭い価値観からセカイを描くっつう手法は今の時点ですでに古びつつあるのは読んでて感じた.独自のひねりは上手く効いているけど既視感も強い.これが 5 年前に出ていたらものすごく新鮮に読めたと思うんだが.テーマを絞っているのも原因のひとつとはいえ,いくらなんでも消費されるスピードが速すぎじゃね,と恐ろしさを覚えるのは私だけですかにゃ?