トーマス・M・ディッシュ/深町真理子訳 『人類皆殺し』 (ハヤカワ文庫SF)

人類皆殺し (ハヤカワ文庫)

人類皆殺し (ハヤカワ文庫)

世界はかってに崩壊してゆくがいい。彼の知ったことではない。彼はいま一度生きかえったのだ。

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《植物》は 1972 年に唐突に出現し,強烈な繁殖力と生命力によって他の種を圧迫しながらわずか 5 年で地球の表面を覆い尽くした.いくつもの種が滅亡し,人類もその例外ではない.文明のすでに崩壊したアメリカ,タッセルの人口はいまや 247 人.人類という種の滅亡は目前に迫っていた.
逃げようのない滅びを目の前にした人々の群像劇.ディッシュの長篇第一作の破滅 SF.《植物》に支配された地球で,人間,宗教,社会を徹底した冷笑的態度で解体,分析していく.宗教的権威,復讐の念,分不相応な支配欲が己が身を助ける,あるいは滅ぼしていく百態は,非常にシンプルな表現ながらすごく引き込まれる.五感への(たぶん普遍的な)生理的不快感を催す舞台装置もすごく効いていた.ねばねばした樹液や暗闇の組み合わせとか,想像するだけで気が滅入ってくるもの.それでいてエピローグで描かれるあっけない「最期」の絵面はものすごく美しい.人類だってまったく救いの無い生き物じゃないんだよ,みたいなメッセージなんかな.あのち〜へい〜せ〜ん〜 か〜が〜やく〜の〜は〜 まあ解釈はてきとう.面白かったです.