打海文三 『愚者と愚者 野蛮な飢えた神々の叛乱/ジェンダー・ファッカー・シスターズ』 (角川文庫)

「三千花は、男の子の願望を、二重に、完璧にみたしてるよ」
「二重って?」
「ファックの対象としての幻想の女の子と、女の子にファックされたい男の子自身」
「そうね。でもいけないこと?」三千花が辛そうな声で訊いた。
「ベッドでなに者になろうが自由だ」

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応化 16 年,内戦下にある日本.各々の信念のため,あるいは金のため,飯のため,セックスのための戦争は,首都圏を中心に軍閥,マフィア,大小さまざまの武装勢力が競り合いを続け,終わる気配のない泥沼にあった.
『裸者と裸者』(上巻感想)(下巻感想)の続編.上巻は「性と人種を横断する」常陸軍孤児部隊司令官の佐々木海人,下巻は「女の子たちのマフィア」パンプキン・ガールズのボス月田椿子.戦争の中心にいる若者たちの目から日本内乱の行方が描かれる.東京や茨城,長野など,テロや局地戦の戦況は,具体的な数字で表される死者・負傷者数とともに時系列に沿って淡々と.腐った軍隊,突っ走る狂信に加えて,様々な人種,思想,ジェンダーが入り乱れる混沌の状態を,現代日本に姿を借りて浮かび上がらせる.
下巻第 1 章「女の子を再定義する」から始まる「女の子たち」の物語は,単なる利権とか信念とか性的嗜好とか,それだけではない何かに突き動かされる人々が興味深い.男根主義者,女の子らしく着飾った奔放な女の子たち,女装して銃をとる男の子たち,ゲイ解放軍,エトセトラエトセトラが入り乱れていく.とりわけ三千花が可愛かった.怒られるかもしらんけど,これこそ男の娘の究極のひとつだと思うのよな.そして一大勢力の黒い旅団が潰えるラストにはいい意味で裏切られた.
面白かったです.読みやすい話ではあるのでさーっと読んでしまったのだけど,特にジェンダー/セックスに関して汲み取れていない部分も多々ありそうな.時間があったらこのあたりじっくり再読したい,なぁ.