ブノワ・デュトゥールトゥル/赤星絵理訳 『幼女と煙草』 (早川書房)

幼女と煙草

幼女と煙草

ふたつの条文どちらにもおかしなところは見当たらなかった……それなのに、両者は真逆の結論を導くのだった。

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死刑囚デジレ・ジョンソンは,最後の願いとして煙草の一服を希望した.これは,刑罰の適用に関する規定に記された正当な権利である.しかし,刑務所の所内規則では塀の中での喫煙を厳格に禁止していた.一方,行政センター職員の「僕」は隠れ喫煙者としての生活と,行き過ぎた児童福祉にうんざりした日々を過ごしていた.
思考停止ぎみに暴走した法治都市が死刑囚と公務員の運命をぐわらんぐわらんとひっくり返す.禁煙ファシズムを描いたブラックコメディ.タイトルはふたつの大きなタブーをシンプルに意味したもの.公務員の「僕」を追い詰める不条理は,筒井康隆の「懲戒の部屋」や「乗越駅の刑罰」を 21 世紀風にアレンジした感じのそれ.最後の喫煙のテレビ中継(実況解説付き)だの,子どもだけの法廷だの,テロリストのリアリティ番組だの,胸糞悪くなるギャグが連発されるものの,目新しさはそんなでもないかな.世界のどこにでもありそうな都市が,実は主人公ふたりを除いて思考停止していた,という不条理も,身近にある危機を皮肉るにはスケールが中途半端な気がした.これはこれで面白かったのだけど,同様のテーマをシチュエーションコメディにまとめた筒井康隆は上手かったのだなあ,ってことを再認識した.