小川一水 『天冥の標 II 救世群』 (ハヤカワ文庫JA)

天冥の標 2 救世群 (ハヤカワ文庫JA)

天冥の標 2 救世群 (ハヤカワ文庫JA)

「まだ決着してはいないわ。アウトブレイクはこの先も起こるでしょうし、そのたびに私たちががんばらなきゃ──」
「そういうことじゃない」
手入れしていないあごひげを撫で回しながら、圭伍はぼそぼそと言った。
「手に負えないものが現れたときの、おれたちの態度というものが、これで決着したといってるんだ。ののしり、石を投げ、荒野へ追い払う……」

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西暦 201X 年,ミクロネシアパラオで未知の伝染病が発生した.国立感染症研究所附属病院の医師である児玉圭伍は一報を受け,対策と調査のために現地へ飛ぶ.強い感染力と特徴的な病態を持ち,感染致死率は非常に高い.のちに冥王斑と呼ばれることになるこの病気の存在は,社会に大きな変革をもたらすことになる.
全十巻シリーズの第二巻.「冥王斑」の発生と全人類の混乱から「救世群」の誕生まで.すべての始まりの物語.未知のウイルスの存在がもたらすパニックと社会の崩壊の過程を,ひとりの医師とひとりの感染者の目を中心に,ミクロとマクロ,多方面から浮き彫りにしていく.終わりの見えない状況がすべてを追い詰めていくディテールは重苦しく,それでいて力強く引き込まれる.さらに「メニー・メニー・シープ」に出てきた特徴的な単語のいくつかも見え隠れ.断片的に繋がりそうで,まだまだ繋がらないストーリーにうずうずさせられた.
傑作でした.しかしいくつもの大きな謎と,絶望的な状況を残したまま三巻(もしくはそれ以降?)までお預けってどういう放置プレイだよ,と.続きが読める日を楽しみに待っております.