マックス・ブルックス/浜野アキオ訳 『WORLD WAR Z』 (文藝春秋)

WORLD WAR Z

WORLD WAR Z

歴史上、はじめてわれわれは掛け値なしの全面戦争をくり広げる敵に直面していた。やつらには忍耐の限界は存在しない。交渉の余地はなく、降伏の二文字もない。やつらは最後の最後まで戦闘を続けるだろう。人間とはちがって、文字どおり一人残らず、いついかなる瞬間であれ、地上に存在する全生命を食らいつくすという使命に全身全霊を捧げているのだから。ロッキー山脈の向こうで待ちかまえていたのはそういう敵だった。われわれが開始しようとしていたのはそんな戦争だった。

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その疫病は中国の辺境で発見され,瞬く間に全世界へと広まった.感染した者は「生ける死者」になり,生きた人間に襲いかかることで爆発的に仲間を増やしていった.ゾンビ,ゼットヘッド,G,などと呼ばれることになった彼らとの戦争は,10 年の間続き,10 年前に終わった.
「人間的な要因」を多く含んだために国連戦後委員会の報告書になり損ねた,「人類史上最大の闘いをめぐる記録」.軍人,民間人,政治家,犯罪者,宇宙飛行士,ほかほか.多様な立場や国籍を持った人々の,10 年前の戦争の体験をインタビュー形式で描いていくパニック小説.事態の発生から拡散,パニック,戦争開始,収束まで,体験談と伝聞が時系列順で並べられていく.ただただ戦うものあり,ただただ逃げるものあり,死んで英雄になる者あり,歴史に名を残すものあり,あまり変わらないものもあり.直接の関係のない個々の人間のエピソードが,あちこちで繋がり,大きな潮流を作っていく感覚.滅亡の寸前まで追い込まれながら,未知の敵との戦いを学習していくことで変化していく人類の意識の有り様もとても興味深い.エンターテイメントでありながら,戦争の表も裏もしっかりと読ませてくれる.
多くのエピソードが収録されており,いかにもなパニックホラーや,悲惨な局地戦もしっかりあるでよ.個人的には「メッツ・ファン」のエピソードが好きだな.ベタで優しくて.とにかく傑作なのでみなさん読まれると良いと思いました.ムチャクチャ面白かった!