田中哲弥 『猿駅/初恋』 (早川書房)

猿駅/初恋 (想像力の文学)

猿駅/初恋 (想像力の文学)

神戸の北野といえば若い女の子なら必ず「あ、異人館行ってみたーい」と目を輝かせるおしゃれな観光地。可愛い子が言うと、ほんとになんだか無邪気で可愛いなあ君は脚も綺麗だしと和むのに、おっさんが行きたがると、駅前で大声張り上げ「ぼくホモです」と宣言するくらい変な目で見られてしまう不思議な街である。

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無人駅の改札を出ると,そこはひたすら猿だった.ちょっと不思議な光景がいつの間にか不気味などこかに変わっている,という話「猿駅」.ある村の儀式の記憶「初恋」はグロとエロと背徳感が掴みどころなく描かれる.これがいちばん好きだな.蚊を殺されることに異常な怒りと狂気を見せる男の顛末「か」.これって電撃文庫に収録されていたんだよな…….進化した猿は人間と区別がつかなくなるという話「猿はあけぼの」は素敵なスラップスティックコメディ.瓢毛村の奇祭に騙されて送り込まれた男の奇妙な体験を描いた「ハイマール祭」はディテールが面白い.
1998 年から 2007 年に発表された作品九篇に,書き下ろし一篇を加えた幻想短篇集.猿への愛が溢れた短篇と,ねっとりと気持ちの悪い悪夢のような短篇と,その両方を兼ね備えた短篇と,粒ぞろいでとても楽しかったです.どこから読んでもはずれが無いので手に取って読んでみるといい.