木本雅彦 『星の舞台からみてる』 (ハヤカワ文庫JA)

星の舞台からみてる (ハヤカワ文庫 JA キ 7-1) (ハヤカワ文庫JA)

星の舞台からみてる (ハヤカワ文庫 JA キ 7-1) (ハヤカワ文庫JA)

Message-body : 僕は生きているよ。まだまだすることがあるし、贖罪しなければならないこともある。僕を、探してごらん。それが君の仕事だよ。

Amazon CAPTCHA

ヘブンズ・ケア・コーポレーション(HCC)は,登録者の死亡後に Web サービスの会員登録解除や死亡通知をまとめて代行するサービスを行っている民間企業.契約社員の荒井香南は,その会員番号一番にして HCC の発案者でもある野上正三郎の担当に指名される.生前の野上の遺した指示は,「自分の人生を追跡してほしい」というものだった.
デキる女を目指す WL(ワーキング・レディ)と,野上がネットワークに遺したエージェント・ボクが,死亡したいたずら好きの技術者の足跡を追う.人間とエージェントの一章ごとの交互の語りにより,様々な事実が明らかになるとともに物語は大きく広がっていく.よくわかる現代社会論,っつう認識であってますか? 現代のコミュニケーション,技術者はどうあるべきか,人工知能は魂を持つのかといった議論や,Web に残したリソースの死後の後始末の方法(俺が死んだらハードディスクを破壊してくれ),果ては自己増殖するエージェントがもたらす(かもしれない)シンギュラリティ.SF の古典的題材からまさに現在直面している問題・技術についてまで,テーマはものすごく多岐に渡っている.ストーリーテリングは淡々としており,デビュー作の『声で魅せてよベイビー』を思い出した.
それぞれの話題について広く浅く触れているため,シミュレーションとか考察とかというよりは,問題提起の一冊なのかなと思った.結論を明確に出さず(そもそも出せるようなもんでもない),考える余地というか議論のきっかけというか,手の届くごく近未来の物語に乗せて読者に自然に提言している,という印象.そういった隙間(?)も含めて楽しく読ませていただきました.読んだ感想を色んなひとから聞いてみたくなる.これも作者と読者(たち)のコミュニケーションの一形態なんかな.