北川拓磨 『A&A アンドロイド・アンド・エイリアン 未知との遭遇まさかの境遇』 (スニーカー文庫)

「うん、美味しい!」
正しく淹れたお茶とコンビニの安い大福は、イリアの顔に花を咲かせた。
なるほど宇宙人の機嫌をとるなんて、確かに人類最大の発明品だ。
光輔はあんこのことを、少しだけ見なおした。

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陸上部員で走ることが大好きな光輔.ある晩,日課である夜のジョギングをしていると,学校の校庭に見慣れぬ少女を見かける.近寄って話しかけた次の瞬間,光輔は岩のような姿をした怪物に襲われ意識を失った.
第 14 回スニーカー大賞奨励賞受賞作.外見はそのままアンドロイドにされてしまった光輔とエイリアン少女のイリア(名前の由来はエ「イリア」ン)の学園生活.不慮の事故でアンドロイドになってしまった=人間ではなくなってしまったことが光輔に及ぼす影響が,あらすじやカバーからは伝わらない,低い温度でじんわり描かれる.さほどオーバーな表現は使わないのだけれど,押さえるべきポイントはしっかり押さえて,一冊でしっかりコンパクトにまとめている.人間ではないことへの苦悩や葛藤といったものもダイレクトに描くのではなく,三人称の静かな語りを効果的に使って伝えようとしている印象を受けた.例えば,アンドロイドには何の意味もない「心臓の鼓動」の,人間にとっての意味とは,とか.
物語のフォーマットは押しかけ女房ものなのだけど,話の枠はそこにとどまらず.とても面白かったです.今後の活躍に期待しています.