はむばね 『魔王さんちの勇者さま』 (徳間デュアル文庫)

魔王さんちの勇者さま (徳間デュアル文庫)

魔王さんちの勇者さま (徳間デュアル文庫)

一瞬で、様々な疑問が澄人の中を駆け巡った。
なぜ魔王はそんなに力を持っている? なぜ魔王は人に狙われる? なぜ、魔王は倒されなければならない? もしデルファイが倒されれば、次はサフラが魔王になるのか? 魔王ってそもそも何? 勇者って、なぜ必要な存在なんだ?

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水上澄人は勇者である.16 歳の誕生日,日付が変わった瞬間.父親に起こされ夢うつつで「お前は勇者だったのだ」と告げられた澄人は,翌朝目が覚めると魔王城にいた.どうやら水上家の一族は代々勇者として魔王を倒すお役目が与えられるらしいのだが,澄人にそんなつもりはまったくなく.「我の部下になるならその命助けてやる!」「じゃあ,お願いします」「え?」「え?」.扱いに困った魔王デルファイは,ひとり娘サフラの世話係に澄人をあてがう.
異世界のボーイ・ミーツ・幼女.片や強大な力を持つが故に敬遠され,周囲に心を閉ざす魔王の姫.片や殺る気はないが血筋が血筋だけに忌避される勇者.導入部でどうなるかと思ったけどこれは良かった.ありきたりな RPG 風ファンタジー世界の解釈や,サフラの成長,まったりした日常など,描き方は全体を通して丁寧で好感が持てるもの.「優しい話」,「いい話」が徹底している(登場人物たちが全員「話せば分かる」)のと,『夏への扉』を彷彿とさせるラストで好みが割れそうな気もするけど,小骨まで取り除くような仕事の結果,気持ちよく読めるし楽しめる.ってことで評価したい所存.