レイ・ブラッドベリ/伊藤典夫訳 『二人がここにいる不思議』 (新潮文庫)

二人がここにいる不思議 (新潮文庫)

二人がここにいる不思議 (新潮文庫)

「それはどなたもご同様さ。そこがシェイクスピアの偉かったところだ。みずからに諭し、ひとに諭し、精神分析医にも教えた。悪いことをすると幽霊が出るぞ、とね。昔の思い出が──ひとを臆病にし、真夜中こわがらせる良心というやつが、たちあらわれて叫ぶだろうと。ハムレットよ、忘れるな、マクベス、逃げられんぞ、マクベス夫人、そなたもだ! 心するがいい、リチャード三世、夜明けの陣営をともに歩むはわれらだ、血にこわばった経かたびらを着て」

Amazon CAPTCHA

1988 年に発表された,レイ・ブラッドベリの 23 冊目の本となる短篇集.収録された二十三篇の初出は 1945 年から 1988 年(書き下ろし)にかけてとムチャクチャ広い.作品のジャンルも同様にムチャクチャ幅広く,SF,ホラー,幻想,ユーモア,様々な味わいの作品が様々に楽しめる.訳者の伊藤さんの解説も,作品と作者への愛情が感じられる素晴らしいものでした.
100 年の時間旅行を経験した老タイム・トラベラーの告白「トインビー・コンベクター.アンチ『1984年』として 1984 年に発表されたとあって,優しくて希望に満ちた短篇.
「気長な分割」.離婚することになったふたりは,お互いの蔵書を分割することになったが,ぜんぜん捗らない.ってだけの話.本好きふたりの押し付け合い,奪い合いを呆れた気持ちで眺めるといい.
目の前に現れたのは 18 年後の未来からやってきた自分だった.彼=未来の自分は,自分の妻を殺してしまったことを悔い,未然に防ぐために過去にやってきたという.同じタイム・トラベルを題材にしながら,「かすかな刺」は「トインビー・コンベクター」とは正反対のテイスト.
「さよなら、ラファイエット.元ラファイエット飛行隊のパイロットだった老人の,人生最後の一幕.かつての戦争を悔いる憐れな老人を描いた話,といえばそれまでだけど,これはあまりに切なすぎる.
「ご領主に乾杯、別れに乾杯!」はユーモアあふれる頓知もの.死んだ領主の遺言は,大量に溜め込んだワインを自分と一緒に埋葬してほしいと言うものだった.田舎のボンクラオヤジどもと弁護士の行動がおかしい.
あるプールサイドで息子に軍事教練を仕込む父親がいた.その 30 年後の出来事,「号令に合わせて」.30 年を隔てて変化した(いや逆にまったく変化しない?)父子の関係という呪縛の強さというか恐ろしさというか.
人口 5000 人の退屈極まりない田舎町を,手作りのミイラで盛り上げてやろうじゃないか! 「ストーンスティル大佐の純自家製本格エジプト・ミイラ」はひとりの爺さんとひとりの少年のイタズラの顛末.ふたりの素敵なコンビプレイと,ほんのり切ないラストが好きすぎる.