飴村行 『粘膜兄弟』 (角川ホラー文庫)

粘膜兄弟 (角川ホラー文庫)

粘膜兄弟 (角川ホラー文庫)

「またフラれちまった……」
夕暮れの大通り商店街を歩きながら矢太吉が呟いた。赤煉瓦敷きの広い歩道には夕日でできた二人の影が長く伸びていた。
「……しかもなんでか知らんが俺らが童貞だってことまでバレちまった」

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戦時中.父親と死別したのち,世間から隔絶した生活を送っていたため,「究極の世間知らず」として育ってきた双子の兄弟,磨太吉と矢太吉.フグリ豚という南東北原産の豚と,それを世話するヘモやんとともに暮らしていた.カフェーの女給ゆず子に揃って入れあげ,通いつめていた兄弟のもとにも,やがて臨時召集令状が届く.
『粘膜人間』『粘膜蜥蜴』に続く,粘膜シリーズ第三弾.22 歳ボンクラ童貞兄弟の生活と戦争と決別.あと輪廻.テキストのユーモアとセンス,描写力はさすが圧倒的.ボンクラ兄弟の仲良しっぷりとヘモやんが強烈な印象を放つ前半が特に愉快.股間がムズムズすること間違いなしの二度の拷問シーンもすごい.一方でストーリーはちっと拍子抜けだったかなぁ.戦争をクローズアップした中盤にあれっと思っていたら,そのままおとなしく落ち着いてしまった印象が強い.「〜蜥蜴」にも登場したナムールのルミン・シルタ,ヘルビノの再登場は嬉しかったけど,「〜蜥蜴」の幻想というか悪夢というか,そういうのを期待していたので物足りなさが勝った.これはこれで悪いわけではないんだけど,なんかもっとこう,と.