アルカジイ&ボリス・ストルガツキー/深見弾訳 『ストーカー』 (ハヤカワ文庫SF)

ストーカー (ハヤカワ文庫 SF 504)

ストーカー (ハヤカワ文庫 SF 504)

「ああそうとも。まったくあんたの言うとおりだ。だが、わかってくれ、おれはただ、ある晴れた朝、自分がベッドの上で自殺しているのを人に見られたくないだけなんだ。おれはストーカーじゃないが、がさつで実際的な人間だ。わかるだろう、人生を愛しているんだ。ずいぶん長いあいだ生きてきて、生きるのが習慣になってしまったんだ……」

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地球に来訪した何者かが残していった痕跡「ゾーン」.疫病や原理不明の物理法則がそこかしこに蔓延する超危険地帯となったゾーンは,周囲から隔絶され,研究の対象となっていた.ゾーンのひとつ,ハーモントの研究助手であるレッドは,ゾーンの中の物品を無断で運び出す密猟者トーカーというもうひとつの顔を持っていた.
1972 年に発表されたロシア SF.あらゆる危険と未知のテクノロジーが混在するゾーンと,そこを漁るストーカーたちの生き様.ゾーンとはなにか,ゾーンをもたらしすぐに立ち去った知性は何が目的だったのか,そもそも知性とはなんぞや.ゾーンに存在し,どんな願いでもかなえるという〈黄金の玉〉の探索.大まかに分けると三つに分けられる章を,ストーカーのレッドことレドリック・シュハルトを中心に描く.ゾーン内の探索行動は非常に緊張感があって良かった.いつ死んでも,それ以上の不幸が起こってもおかしくない,というじりじりした緊張感.ゾーンは関わる者にあらゆる不幸(科学ともオカルトとも取れるような)を与える,やりすぎなくらい徹底的に理不尽な場所として描かれている.それだけに,知性をめぐる議論が唐突に挟まれるのは面白かったのと同時に正直面食らった.実はメインはそちらにあったのか? と考えたのは訳者あとがきまで読んでからのこと.