チャイナ・ミエヴィル/日暮雅通・他訳 『ジェイクをさがして』 (ハヤカワ文庫SF)

ジェイクをさがして (ハヤカワ文庫SF)

ジェイクをさがして (ハヤカワ文庫SF)

世界の終わりってのは、こんなふうに来るのか、ときみが言った。
爆発したりじゃなくてね、とぼくは続けた。むしろ何ていうか……
ぼくらは考えた。
……ゆっくりと息を吐き出すみたいに? ときみが言った。

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「基礎」柳下毅一郎訳).この街の基礎はたくさんの死体で出来ている,という怪談.ラストでいやな気分に落とし込んでくれる.
ショッピングセンターの託児所にあるボールルームで,たびたび不思議な出来事が起こるようになる.「ボールルーム」(田中一江訳)も正統派の怪談.幽霊(?)の出た跡は濡れているもの,というのは洋の東西問わずなのかしら(理由が違うが).
作家チャイナ・ミエヴィルのもとに宛先間違いで届いた郵便物の中身,「ロンドンにおける“ある出来事”の報告」日暮雅通訳).100 年以上に渡る断片的な記録で不気味に浮かび上がせる.着想もすごいし,その描き方もすごく面白い.
運河に捨てられた使い魔くんの冒険と成長の記録,「使い魔」日暮雅通訳).グロいが楽しいなー.使い魔くんの貪欲な成長のギミックはオトコのコ心をくすぐってくれる.
「もうひとつの空」日暮雅通訳).老人の 71 歳の誕生日,自分へのプレゼントとして気まぐれに買った一枚の窓.その向こうに見える景色.てっきり「いい話」になるのかと思ったらまったくそんなことなかったんだぜ.
「飢餓の終わり」(田中一江訳).ワンクリックするだけで誰でも気軽に募金ができる Web サイト《飢餓の終わり》に喧嘩をふっかけたハッカーの行く末.陰謀論ものだけど,仕掛けに使われているのが普通に見かけるサービス(「つぶやくことで1円を〜」みたいな)なのでなんともいえない不思議な心持ちになる.
「あの季節がやってきた」日暮雅通訳).商標登録され企業のものとなったクリスマス(TM)の夜のドタバタ劇.サンタ(TM),ヤドリギ(TM),クリスマスツリー(TM)…….素晴らしくくだらなくて素敵.
「ジャック」日暮雅通訳).改造人間“お祈りジャック”の活躍する『ペルディード・ストリート・ステーション』の番外作品.鼠小僧のような古きよき義賊を見つめ続けた男の述懐.カッコよくて悲しいヒーローもの.
「鏡」(田中一江訳).鏡の中から出現したイマーゴたちと人間との最終戦争.鏡の中にいたイマーゴたちが人間をどのように見ていたか.鏡の中にあるもうひとつの世界が面白い.もうちょい長い尺で読みたい.
ほか表題作「ジェイクをさがして」日暮雅通訳),「ある医学百科事典の一項目」市田泉訳),「細部に宿るもの」日暮雅通訳),「仲介者」日暮雅通訳),「前線へ向かう道」日暮雅通訳)を含む全 14 篇.イギリス人作家チャイナ・ミエヴィルの初短篇集.話に聞いていたとおり,怪獣,怪人もの,あるいは怪談みたいな趣が強かった.どれもこれもバッドエンドのいやーな話ばかりだけどもしかし面白かった.去年話題になっていた『ペルディード・ストリート・ステーション』も読みたくなりました,と(厚さにひるんでた).