大森望編 『時間SF傑作選 ここがウィネトカなら、きみはジュディ』 (ハヤカワ文庫SF)

ここがウィネトカなら、きみはジュディ 時間SF傑作選 (SFマガジン創刊50周年記念アンソロジー)

ここがウィネトカなら、きみはジュディ 時間SF傑作選 (SFマガジン創刊50周年記念アンソロジー)

なにをもってしても過去を消すことはかないません。そこには悔悛があり、償いがあり、赦しがあります。ただそれだけです。けれども、それだけでじゅうぶんなのです。

「商人と錬金術師の門」(Amazon.co.jp)

テッド・チャン「商人と錬金術師の門」.裏と表が 20 年の歳月で隔てられた〈門〉をめぐる物語.アラビアン・ナイト風に語られる物語は静かで切ない.
1903 年,ふたりは凍結者によって活人画にされた.男が目を覚ますと,そこは 1935 年だった.クリストファー・プリースト「限りなき夏」は時間ロマンスのお手本のような話だと思う.
イアン・ワトスン&ロベルト・クアリア「彼らの生涯の最愛の時」.マックドナルド(MacDonald)でスーパーサイズに邪魔されながら,時を隔ててすれ違い続けるふたり.パーツのバカバカしさと閉じられるラストがいかにも現代的 SF,と思ってよく見たら 2009 年に発表されたばかりだったのか.
ボブ・ショウ「去りにし日々の光」.光が非常に遅く通り抜けるため,過去の光景を写すスロー・ガラスを扱った一篇.テーマも相まってか,薄暗い天気が目の裏に浮かぶよう.
就職祝いのお金で,アレクサンドリア図書館へ 24 時間のタイムトラベルに出かけることにしたハートスタインだったが.ジョージ・アレック・エフィンジャー「時の鳥」.タイムトラベル云々よりしみったれた未来像が(よくあるパターンとはいえ)印象に強いなあ.
旅行代理店の企画した,世界の終わりを見てこようツアー,ロバート・シルヴァーバーグ「世界の終わりを見にいったとき」.短い尺で畳み掛けるような終末のラッシュ.ブラックユーモアが効いてて楽しいこと.
目が覚めたら水曜日だった.シオドア・スタージョン「昨日は月曜日だった」.時間とは実は××だったんだよ,という世界の舞台裏を愉快に垣間見る.
場所により時間の流れが異なる世界.ここは〈境界〉の向こう側と戦争の真っ只中にあった.デイヴィッド・I・マッスン「旅人の憩い」.戦場から離れるにつれて流れの遅くなる「時間」描写の面白さ.
H・ビーム・パイパー「いまひとたびの」.戦争による死(滅亡)を目前にして,子どもの頃の自分へと意識が戻る.解説にもあげられている筒井康隆「秒読み」とテーマはほとんど同じなのに,なぞるストーリーと結末の違いときたら.これも「日本だけの特殊事情」のなせる技なのかしら.
リチャード・A・ルポフ「12:01PM」.ある 1 時間を,記憶を持ったまま何度も何度も繰り返す男の孤独.ループものの基本のような話.
異星人により,同じ一日を七百万年にわたって繰り返すことになった地球.ただし一日につき二時間の休憩が入る.ソムトウ・スチャリトクル「しばし天の祝福より遠ざかり……」.作中で言う「煉獄」をユーモラスに描いている.
イアン・ワトスン「夕方、はやく」.ここは人類の 800 万年の歴史が,丸一日をかけて何度も繰り返されるようになった地球,らしい.ムチャクチャな発想,だがそれがいい
飛び飛びに人生を送っている男と女のロマンス,F・M・バズビイ「ここがウィネトカなら、きみはジュディ」.ラストのひとことがいいなあ.