上田早夕里 『華竜の宮』 (早川書房)

華竜の宮 (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)

華竜の宮 (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)

「それこそが、人類の知性にとって──最後の試練となるでしょう」

華竜の宮 (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション) | 上田 早夕里, 山本ゆり繪 |本 | 通販 | Amazon

〈リ・クリティシャス〉──260 メートルの海面上昇という大災厄を,人類は自らを含む地球生物の人為的改変によって乗り越えた.それから数百年.人類は第二の繁栄と呼べる時期をむかえていた.かつてとは異なった枠組みで,陸上民と海上民に大別される社会が徐々に溝を深めていくなか,地球に新たな災厄が迫りつつあった.
滅びを前にした人類を駆り立てる理想とは.日本政府の末端の外交官・青澄と,海上民を束ねるオサ・ツキソメを中心に描く未来社会.去年の日本SF大賞候補となった『魚舟・獣舟』の世界観を受け継いだ長編.獣舟,ムツメクラゲ,汚染された海域などのある,厳しい海洋環境.政府や幾種類もの共同体が利害を求めてうごうごする人間社会.「固定された理想など何の役にも立たない」「世界はバランスで動いている」という事実と向き合いながら,言葉を用いた「交渉」によって平和をもたらそうとする青澄のまっすぐすぎる信念にひりひりする.
それにしても,いろんな切り口で描けそうな面白い世界観だと思う.大きく変化した地球,人類,生物相,描いていない部分はいくらでもありそう.あとがきで言う「この世界観を使った別の物語」,いつかぜひ読みたいと思いました.とりあえず,小川一水が好きなひとは手に取って読んでみるといい.