藤子・F・不二雄/瀬名秀明 『小説版ドラえもん のび太と鉄人兵団』 (小学館)

小説版ドラえもん のび太と鉄人兵団

小説版ドラえもん のび太と鉄人兵団

のび太は林の向こうへ次々と降りてゆく鉄人たちに向かって、銃を撃ち続けていた。標的は林の奥へと見えなくなってゆく。だがその動きさえ、地表を這ってのび太の五感を直撃してくるかのようだ。穴に潜っていると、地面がこんなにも圧倒的で、目に迫ってくるものだとは知らなかった。指先ががちがちに固まっている。のび太は指先から銃を引きはがし、手をほぐした。あと数分もすればふたたび鉄人がやってくる。

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ドラえもん 新・のび太と鉄人兵団〜はばたけ 天使たち〜』の劇場公開をきっかけとして企画されたという小説版.ストーリー自体は旧版を忠実になぞりつつ,ちょっとしたアレンジを加えたノベライズになっている.
テキストとシナリオに付け加えられたアレンジは最低限のものなのだけど,その効果が半端ない.必要最低限のテキストで,キャラや設定の掘り下げに最高の効果を上げることに成功している.とりわけ,ジュドの頭脳(青い球)に施されたある仕掛け(旧版とも新版とも違う)が白眉.湖畔のバトルの緊張感が恐ろしいことになっていた.
加えて,作中でのちょっとした疑問に用意された回答も,ユーモアとスマートさを備えたもの.鉄人兵団になぜジュドと同じサイズのロボットがいないのか,鏡面世界のものを食っても大丈夫なの(光学異性体的な意味で),タイムマシンで時間をさかのぼって過去に戻った場合,残された時間はどうなるの,四次元ポケットの中でひみつ道具はどう整理されてるの.にやっとさせられると同時に納得させられる.
ほかにも人間とロボットと神の関係も面白いし,きれいなジャイアンはもちろんスネ夫さえむちゃくちゃカッコいいし,なんというか,技術と愛が凝縮された最高のノベライズではないかと思いました.