デイヴィッド・ゴードン/青木千鶴訳 『二流小説家』 (ハヤカワ・ミステリ)

二流小説家 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

二流小説家 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

テレサは長椅子に腰をおろし、おびただしい数の黄色い付箋紙をはみださせた分厚い法律書を取りだした。眼鏡ケースを開けて、取りだした眼鏡をかけた。セクシーな司書タイプの女にどうしても惹かれてしまうのは、ぼくだけだろうか。読書をしている女より色っぽいものがこの世に存在するなら、教えてほしいものだ。

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ハリー・ブロックは売れない小説家.ポルノ雑誌の投稿コーナーから始まり,SF,都会小説,ヴァンパイア小説と多様な作品をそれぞれ別のペンネームで発表してきた彼のもとに,ある日一通の手紙が届く.差出人は元連続殺人鬼のダリアン・クレイ.刑務所の中で死刑判決を待つ身のダリアンは,ハリーに奇妙な依頼をする.
ポルノまがいの作品で口に糊してきた中年作家に舞い込んできた千載一遇のチャンス,かと思いきや.すんごく面白かったあ.ミステリを基本にしながら,売れない作家の情けないところとカッコいいところをたくさんのユーモアと愛で描ききる.女子高生にまで軽くあしらわれるヘタレの中年作家ハリーが,様々な出来事や人びとに翻弄されるうちにえらいカッコよくなってゆく.地の文(ハリーの一人称)の印象からして,前半と後半では大きく違う.その語られる作家論の熱さときたら.作家としての自分を再発見する話,というか,中年男を主人公にしたビルドゥングスロマンなのかもなあ,と思った.