ニック・ピゾラット/東野さやか訳 『逃亡のガルヴェストン』 (ハヤカワ・ミステリ)

逃亡のガルヴェストン (ハヤカワ・ミステリ)

逃亡のガルヴェストン (ハヤカワ・ミステリ)

診療所で肺のレントゲンを撮った。まるで雪が舞っているようだった。
診療室を出ると、待合室の全員が自分でなくてよかったと安堵しているように見えた。物事には顔を見ただけでわかることがある。

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ギャングの一員として長く生きてきたロイは,肺癌を宣告された.その日の晩,もう長くないと自分に言い聞かせるロイは,ボスの裏切りを受けて追われる身となる.ロイは成り行きで命を救った家出娘のロッキーとその妹ティファニーを道連れに,かつて恋人と過ごした地,ガルヴェストンへの逃亡を図る.
癌で先のないギャング,娼婦をしていた家出少女,その幼い妹.三人が過ごすガルヴェストンでの静かな逃避の日々とその行く末.作者の長篇デビュー作.父親か恋人のように姉妹の将来を案じるロイは,少女ロッキーに翻弄される.無邪気さと,いくつもの秘密を併せ持っているらしいロッキーはひどく魅力的で危なっかしくて,読んでるこちらまでハラハラさせられる.静かなテキストと豊かな情景描写にも惹きつけられる.
物語は奇数章と偶数章で,交互に別の時間軸が書かれてゆく.ともに静かな生活が描かれてゆくも,終盤で急激に収斂する.ふたつの時間軸の意味が分かった瞬間,絶句させられた.ヒントはいくつもあったかもしれないのだけど,目を背けたかった最悪の事実をまざまざ見せつけられたようで,頭の中で繋がったとたんぞわっとした.これは素晴らしいものでした.