泉和良 『セドナ、鎮まりてあれかし』 (ハヤカワ文庫JA)

セドナ、鎮まりてあれかし (ハヤカワ文庫JA)

セドナ、鎮まりてあれかし (ハヤカワ文庫JA)

私は、ゴロがこの星の新しい住人になったことが嬉しかった。私はそのことを喜びながら、心の中で彼にこう告げた。
ゴロ。最果ての星、セドナへようこそ。私も君を歓迎します。

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一度は繁栄し,その後の大戦で完全に荒廃しきった小惑星セドナテラフォーミング用のナノマシンが独自の生態系を生み,夜は激しい砂嵐の舞うこの星に,元パイロットのゴロこと尾野碁呂空曹が着任する.ゴロはセドナに住む老人イーイーと,アンドロイドのクイミクとともに,戦争で亡くなった英霊たちの遺骨を集める.
「俊英作家の癒しと再生の物語」.過酷な環境の星で,ただ淡々と遺骨を掘り,英霊を鎮める.セドナナノマシンといった SF のアイテムを取り出しつつも,作者の興味がそこにあるようには到底見えない.舞台がセドナと日本(地名のみ)のふたつしか登場しないなど,分かってやっているのは間違いないはず.正直かなり地味な話ではあるのだけれど,それだけでは言い表せない,不思議な作品となっている.これは SF としての面白さではないと思う,というか,帯にもどこにも「SF」とは書いてないんだよな.先入観を持たずに読んでみると,なにか見えなかったものが見えてくる,のかもしれない.