ヨハン・テオリン/三角和代訳 『黄昏に眠る秋』 (ハヤカワ・ミステリ)

黄昏に眠る秋 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

黄昏に眠る秋 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

別荘がまだここに建っていることさえ驚きだとユリアは思う。イェンスがいなくなってから世界では数え切れないほどのことが起こったからだ。あたらしい国のできた一方で、存在しなくなった国もある。ステンヴィークは一年の大半で訪れるものもいない村となっている。それなのに、イェンスがあの日に出ていった家はまだここにある。
ユリアはステップに座り、ため息を漏らした。
気が遠くなるわね、イェンス。

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1972 年.霧深いエーランド島で,5 歳の少年イェンスが行方不明となった.それから二十数年が経った.イェンスの祖父イェルロフの元に,小さなサンダルが郵送されてくる.いなくなった息子を諦められず,いまだ引きずり続けていたイェンスの母親ユリアは,その連絡を受けてエーランド島を久しぶりに訪れる.
スウェーデン出身の作者による長編デビュー作.反発しながら,20 年前にいなくなった子どもを探す父と娘.そこに,死んだはずの男,ニルス・カントの影がつきまとう.あらゆるものから目を背けて息子を追うユリアと,どこかが壊れた(ように見える)ニルス・カント.過去と現在の出来事が少しずつ交わっていく.北欧の寂れた村と,過去を恐れる老人たちという舞台立てが寒々とした独特の雰囲気を出している.いずれもネガティブで,感情移入しにくかった登場人物たちが,背景が明らかになるに連れて,だんだんと愛おしく思えるようになる.派手さはないけどじんわりしみてくる,良いミステリだと思いました.