五代ゆう 『クォンタムデビルサーガ アバタールチューナーIII』 (ハヤカワ文庫JA)

「……なぜ、何も言わない」
迫り来る死の足音を聞きながら、一幾は声をしぼり出した。一言ごとに、苦い唾と血があふれて、舌先から落ちた。
「なぜ、何も言わない。すべてはおまえから起こったことだ。すべては〈神〉とキュヴィエ症候群から起こった。俺たちが、あんたに何をした。答えろ、〈神〉よ、見えているなら。聞こえているなら、答えろ、〈神〉よ、〈神〉、俺たちが、いったい何をした。こんな扱いに値するような、何をしたというんだ。〈神〉。〈神〉よ」

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〈楽園〉をめぐる物語,第二部.〈煉獄〉ことジャンクヤードの成り立ちが語られる前日譚.〈神〉と交信できる〈テクノシャーマン〉セラフィータと,恋人を失った精神技術者ホムラ・カズキとデザイナーズ・チャイルド,ミナセ・シンの確執というふたつの軸から世界を描いてゆく.〈神〉が実在することを前提とした世界で,ヒトは何が出来るか,というテーマは「ジャン・ゴーレ」と同じと言っていいのかな.終末的な雰囲気は似ていなくもないけど,アプローチがぜんぜん違うのは面白い.
二巻までと違い,舞台が地球であることははっきり説明される.しかしこの世界がなぜこうあるか,5W1H すべてが提示されるわけではないので,若干もやっとした気持ちは残った.まあそのあたりもこれから明らかになっていくのかな.続きを楽しみに待っております.