ツカサ 『九十九の空傘』 (ガガガ文庫)

九十九の空傘 (ガガガ文庫)

九十九の空傘 (ガガガ文庫)

「悪い人は、悪いことができる人。だから悪いことをするか、しないか、自分で決められる。シグは、そういう人だって思ったの」
「だが、悪い奴よりは良い奴のほうが信用できるだろ?」
たぶん褒められているのか貶されているのか、わからないのだろう。シグは複雑な表情を浮かべて訊ねてきた。
けれどわたしは、はっきりと首を横に振る。
「ううん──良い人はね、何が悪いかをわかってないから、良い人なんだよ。だから信じられる人なんていなかった」

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気がつくと少女は,空色の傘を手にあばら屋の中で佇んでいた.曖昧な記憶のまま外へ出ると,そこにいたのは大きな口を持った霧の化物.食われそうになった少女を救ったのは,銃を持った男だった.
「RIGHT×LIGHT」に続く新作.人間のいなくなった街で,空色の傘の九十九神カサと,銃の九十九神シグが出会う.ひとことで言うなら「優しいポストアポカリプスもの」かな.廃墟となった街に暮らすのは今ではわずかな数の九十九神ばかり.この世界での九十九神は一般的な付喪神とはちょっと解釈が違い,元の持ち主の思念が人の形をとったもの.遠い昔に戦争(テロ?)があったらしいことはほのめかされるものの,人間がいなくなった理由ははっきりとは明かされない.カサは人間だった頃のトラウマを抱えているらしい(引用部分に顕著)のだけど,肝心な部分はぼやかされる.情報を小出しにしつつ,核心はぼんやりと隠す.この情報の出し方は上手い.廃墟の描写や,滅んだ世界に降る雨の擬音も雰囲気を盛り上げ,知らず引きこまれていく.
トーリーや女の子の一人称は『クダンの話をしましょうか』にちょっと似ている気がする.これは売れるといいなあ.エピローグのイラストにじわっとしてしまったし,続き読みたいです.