レベッカ・スクルート/中里京子訳 『不死細胞ヒーラ ヘンリエッタ・ラックスの永遠(とわ)なる人生』 (講談社)

不死細胞ヒーラ  ヘンリエッタ・ラックスの永遠なる人生

不死細胞ヒーラ ヘンリエッタ・ラックスの永遠なる人生

今日どれだけ多くのヘンリエッタの細胞が生きつづけているかは、正確には知りようがない。ある科学者は、今までに培養されたヒーラ細胞をすべて秤に載せたら、五千万トンを超えるだろうと言う。個々の細胞の重さが限りなくゼロに近いことを考えると、これは想像を絶する量だ。今までに培養されてきたヒーラ細胞をすべてつなげると一億六百六十八万メートルを超え、少なくとも地球を三周はすると見積もる科学者もいる。ヘンリエッタの身長は、人生の盛りのときでさえ、百五十センチそこそこしかなかったのだが。

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「母さんは有名人なんだよ」。彼女はささやいた。「ただ誰もそれを知らないだけ」。

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ヒーラ細胞とは,永遠の生命を持ち,環境を整える限り無限に増殖を続ける癌細胞.ポリオワクチンの開発,遺伝子マッピングなど,ありとあらゆる研究に使用され,医学と生物学の進歩に貢献してきたこの細胞は,ヘンリエッタ・ラックスという黒人女性から無断で採取されたものだった.
1951 年にヘンリエッタから採取された癌細胞が,その後の世界をどのように変えたか,そして遺された家族に何をもたらしたかを書いた力作のノンフィクション.ヘンリエッタと娘のデボラを中心としたラックス一家の周辺には真摯に,歴史的事実に対してはできるだけ客観的に,中立的な立場を保っている.とにかく真摯に,なおかつ全力を尽くした取材の跡がうかがえる.貧困層の黒人一家から始まって,ノーベル賞科学者から詐欺師まで巻き込んで世界中を変えていく 50 年の出来事は,へたな SF よりずっと SF みたいで奇妙でドラマチックなんだけど,しかし紛れもない現実の話なんだよなあ.凄まじく心うたれた.大傑作でした.