滝川廉治 『超人間・岩村』 (スーパーダッシュ文庫)

超人間・岩村 (集英社スーパーダッシュ文庫)

超人間・岩村 (集英社スーパーダッシュ文庫)

「確かに、潰された部の多くはくだらなくて意味のないものだったのかもしれません。しかし、本当に全てがそうだったと言い切れるのでしょうか。たとえ、どんなに少数の人しか支持していなくても、それが誰かにとって大切な心の支えや、希望、生きていく活力になっていたのなら……」
なぜだろう──杉浦の語りには、潰れた部の一つ一つをまるで自分の分身のように捉えているような、不思議な親密さがあった。
「それを潰されるのは……心を殺されるのと、同じです」

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岩村陽春はアメコミ同好会に所属する高校生.「無理」や「不可能」という言葉を嫌い,同好会の友人である多村,マルカーノと一緒に西へ東へ人助けをして回る彼のことを,周囲の人間は敬意を込めて「超人間」と呼ぶ.
廃部寸前の演劇部を助っ人することになったアメコミ同好会の活躍.そして彼らはなぜ「超人間」になったのか.第 7 回スーパーダッシュ小説新人賞佳作受賞作.ぱっと見は弱小同好会とエリート生徒会との対決,という体なのだけど,キャラクターに強烈な力があってそれだけにとどまらない.いけ好かない「敵」側のキャラクターにもちゃんと理屈があって動いていることが説明され,最終的に「悪」を誰にも押し付けない話になっているのがいい.基本三人称の文体なのに,シーンごとに誰かの視点が入り込む(山場の「ロミオとジュリエット」のシーンが顕著……,しかしこれが逆にシーンを印象深くしていたのは狙ってやったのかそうでないのか)など,粗い部分も目立つのだけど,それをおおいに上回る魅力がある.良いものでした.