ブルース・ダシルヴァ/青木千鶴訳 『記者魂』 (ハヤカワ・ミステリ)

記者魂 ((ハヤカワ・ミステリ1849))

記者魂 ((ハヤカワ・ミステリ1849))

着ていた服の上からトレーナーを羽織り、フォード・ブロンコに乗りこんだ。
「これはもう、スクープがうんぬんってだけの話じゃない。放火魔の野郎は、おれを本気で怒らせた。おれの個人的な恨みを買った」歩道脇から車を出しながら、おれは言った。
「どうして?」
「おれの性生活を台無しにしたからさ」

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リアム・マリガンはロードアイランド州にある地方新聞のしがない中年の新聞記者.日々の胃痛と戦いながら連続放火事件を追うマリガンは,やがてこの地方にはびこる裏の事情に近づいていく.
アメリカ探偵作家クラブ賞・最優秀新人賞受賞作.原題の "Rogue Island"(ならず者の島)は舞台のロードアイランドとかけている.連続刑事ドラマのような序盤は説明が多くやや退屈,新聞社のボンクラ御曹司が登場する中盤あたりからじわじわと面白くなってくる.どう見ても有望に見えないし,まったく格好良くもないくたびれきった男を主人公に据えたのが作者の良心なんかな.
65 歳の作者は作家としては新人だが,記者としては 40 年以上のキャリアがあるそうな.そのためか,衰退しきった新聞業界の現状の描写は,ユーモア混じりなんだけどどこか切なさもある.読み終わってみると,ロードアイランド州という土地がいかにろくでもない場所かということがいちばん強く頭に残った.