杉山幌 『嘘月』 (講談社BOX)

嘘月 (講談社BOX)

嘘月 (講談社BOX)

……おれは、馬鹿だ。
気を失う寸前に、そんな言葉が反響した。
こんなことは起きないと思っていた。
そういう物語じゃないと思っていた。
何の保証も無いのに、馬鹿みたいに、そう思い込んでいたんだ。

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日本に誕生した移民社会の物語『R.I.P. レスト・イン・ピース』でデビューした作者の二冊目の単行本.「能力」を持った生徒を集めた学園を舞台に,探偵気質の無能力者佐々木と,相手が嘘をついているかが分かる瀬谷が活躍する.いわゆる「日常の謎」の連作短篇集.異能ものではなく,ほんのちょっとした能力なんだけど,それがしっかり事件の鍵を握るようになっているのがなかなか上手い.序盤はそうでもないのだけど,あることが明らかにされる中盤から話がぐんと盛り上がり,記号的かと思ったキャラクターもどんどんかわいくみえてくる.
今回読んで思ったのは,「死」を取り巻く事情をすごく生き生き描くひとだなあということ.デビュー作も『Powers Selection [新走]』収録の短篇もだったけど,誰かの死そのものより,目の当たりにした周囲の人間の心の機微を,重くなりすぎず軽くなりすぎず,すごく良いバランスで描写していると思う.
ということで良かったです.地力のあるひとだと思うし,もっといろんな作品を読んでみたいな.