喜多南 『僕と姉妹と幽霊の約束』 (このライトノベルがすごい!文庫)

僕と姉妹と幽霊の約束 (このライトノベルがすごい!文庫)

僕と姉妹と幽霊の約束 (このライトノベルがすごい!文庫)

「幽霊になったから、かな」
ぽつり、と紫音が漏らした呟きが、耳に届いた。紫音は背中を向けたままだった。
「私は、全部を諦めて生きてきた。でも、ほら、もう諦めようがないでしょう? だから、何もかもに抗いたくなっちゃったのかも」

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霊感体質の高校生,結城クロは,放課後の教室でかつての同級生,長谷川紫音の幽霊に出会う.化けて出たにもかかわらず,この世への心残りが思い当たらないという紫音を成仏させるため,クロは姉や妹を巻き込みながら,様々な事件を解決してゆく.
片想いしていた少女の幽霊と,二人の姉とひとりの妹を巻き込んだ学園幽霊事件簿.ストーリーやテキストは非常に落ち着いており,素直な心持ちで読んでいける.人間関係の描写が全体に対して少なめだったのが不満かなぁ.幼なじみの関係,四人きょうだいの関係,紫音と四人きょうだいの関係といった重要な部分が最低限しか描かれていない印象.そのため,後半で話をまとめにかかってからがやや性急な気がした.決して悪いわけではないのだけど,というか題材の時点で好きすぎるので嫌いになれないのだけど,人間関係がもっとしっかり描かれていれば,広い方面にもっと強くおすすめできたのになあ,という.書き込みでページ数が増えるよりも,手に取りやすいようリーダビリティを選んだように見える,っていうのは好意に寄りすぎの見方だよね.
ということで第 2 回『このライトノベルがすごい!』大賞・優秀賞受賞作の感想でした.作者は主婦らしいのだけど,ライトノベル新人賞プロフィールで,先頭に「主婦」とあるのは珍しいかもしれない.書く力はあるひとだと思う.今後の活躍を楽しみにしています.