スタニスワフ・レム/深見弾訳 『宇宙飛行士ピルクス物語』 (ハヤカワ文庫SF)

宇宙飛行士ピルクス物語(上) (ハヤカワ文庫SF)

宇宙飛行士ピルクス物語(上) (ハヤカワ文庫SF)

宇宙飛行士ピルクス物語(下) (ハヤカワ文庫SF)

宇宙飛行士ピルクス物語(下) (ハヤカワ文庫SF)

「わたしの行為は、自分が採用した公理の論理にしたがっているんであって、本能にしたがっているわけじゃない、という点です。わたしにはそういう本能はありません。あなたがたの不幸のひとつは、本能以外にほとんどなにも持ちあわせていないということです。いわゆる隣人愛は実際にはどうやってあらわされるのでしょうか? あなたがたは事件の被害者にたいして同情もするし、救助の手もさしのべます。しかしですよ、その被害者が一万人もいたら、いちいち同情なんかしていられないんじゃありませんか。思いやりなんてあまりたいして抱擁力なんかないもんですし、それほど伸張性もありません。人数が少ない場合はそれも悪くはありませんが、ことに手におえないほどの量が問題になると、そんなものはなんの役にもたちません。しかも技術進歩があなたがたの道徳なんてますます手ぎわよく破壊していきますよ。倫理的責任をとる雰囲気なんて因果関係の鎖の環──あまり多くもない環のさきっぽの部分をかろうじてつかんでいるにすぎません。やたらに進歩進歩といって先をいそぎたがる者は、将来の結果にぜんぜん責任なんて感じていません」

宇宙飛行士ピルクス物語(上) (ハヤカワ文庫SF) | スタニスワフ レム, John Harris, 深見 弾 |本 | 通販 | Amazon

宇宙飛行士ピルクスの活躍と人生を描いた連作短篇集の,30 年目の初文庫化.訓練生時代の実地飛行試験でのアクシデント「テスト」.人間そっくりのロボット宇宙飛行士を乗せた宇宙船が起こした事故の真相「審問」など,火星や月面を舞台にした物語.事前に想像していた以上に地に足がついているというか,思考とブラックユーモアと諦観とがないまぜになっている.読んでみると「時代がやっとレムに追いついたのだ」という解説の言葉はすごくよくわかる.