籘真千歳 『スワロウテイル/幼形成熟の終わり』 (ハヤカワ文庫JA)

スワロウテイル/幼形成熟の終わり (ハヤカワ文庫JA)

スワロウテイル/幼形成熟の終わり (ハヤカワ文庫JA)

「あなたが正体を明かさないのは、あなたが隠しているからではなく、あくまで私たちの側があなたたちを理解できないからだと、そう言い張るわけね?」
『その通りです、閣下。人は社会との隔絶を経て、初めて物語の主人公になる。古今東西、世界のあらゆる逸話や伝承や創作の全てにおいて例外はない。アーサー・ペンドラゴンがカリブルヌスを抜いたことで王となって叙情詩の幕が開け、親友と愛妻の裏切りによって最果ての孤独に苛まれながら幕が下りるように。隔絶のきっかけが奇跡を起こす魔法や神宝であるにしろ、人々から嘱望された使命であるにしろ、社会から排斥された屈辱であるにしろ、畜群(ひとびと)の理解を超越したときにはじめて、彼は一介の端役から主人公に変貌するのです』

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関東湾に浮かぶ人工島,東京自治区では,〈種のアポトーシス〉に感染した男女が別々に隔離され,第三の性である人工妖精(フィギュア)とともに暮らしていた.後輩の葬儀に出た揚羽は動く死体(リビングデッド)と化した後輩に出くわし,自警団(イエロー)の曽田は人工妖精(フィギュア)“顔剥ぎ”(フェイス・オフ)事件を追うなか,東京自治区をテロが襲う.
人間と人工妖精(フィギュア),そして人工知能(A.I.).様々な価値観を持った集団が,東京自治区を中心に集いぶつかる.『スワロウテイル人工少女販売処』に続く,「スワロウテイル」シリーズの第二作目.提供される情報の密度が半端ない.「東京自治区」を中心とした世界観を,端のほうから情報を積み上げていくことで創り上げていくような感じ.一巻もみっちりしていたけど,そこにさらに情報と主張を詰め込んで,レイヤーを一枚上乗せしたような.「巧い」という印象はないのだけど,そこかしこで分かりやすい例を挙げてくれるので,読みやすくなっている(ページ数が余計に増えている気がするけど).
物語はいくつかのヒントと大きな謎を残しつつ〆られる.今回の主眼は,あとがきにもあるように,価値観の変動がどのように形成されてゆくか,なのかな.この世界観の根幹に関わる大きな事件が動くものの,語りはむしろかなり淡々としている印象を受けた.これ一冊ですべてが解決されるわけではないので,少し消化不良気味な気持ちはある.しかし,紙面から立ち昇るじりじりした執念みたいなものは本物だと思う.不満はきっと続巻で解決してくれるはず.そのためにも,皆も買って読むといいと思うよ!