森田季節 『原点回帰ウォーカーズ』 (MF文庫J)

原点回帰ウォーカーズ (MF文庫J)

原点回帰ウォーカーズ (MF文庫J)

「現実がフィクションに追いつく……?」
なんか観念的だけど気味の悪い言葉だ。
「人が月に行ったことを考えてみなよ。あれも最初は夢物語だった。あるいはゲームと現実の区別がつかなくなるなんて言われてた時代を考えてみなよ。現代はパソコンからの投機で億万長者になる人もいれば、破産する人もいる。コンピューターで数字を動かすだけで人生が決まっちゃう。夢や妄想はいつか現実と同化してしまうんだ。これを『フィクションの終焉』って言ったら何かかっこよくない?」
「いえ、それほどでも」

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都立御伽坂学園では,毎日のようにおかしな事件が起きていた.学園の平和を守る【日本一平凡なヒーロー】山崎章夫だったが,彼は何者かにあっさり殺されてしまう.章夫の幼なじみで学園「当局」に所属する少女,足立アキラは,学園の平和と章夫の命を助けるために東奔西走することになる.
アキラと三奇人は世界をフィクション化する正体不明の『彼ら』と戦う.『ベネズエラ・ビター・マイ・スウィート』でデビューした森田季節の三作目.彼が殺されてしまう現実を,「これは演技(フィクション)です」という事実で何度も上書きして救おうとする.「フィクション」を「世界線」に置き換えると『シュタインズ・ゲート』に近くなるのだけど,発売されたのはこちらのほうが先(シュタゲは 2009 年 10 月発売).そっけないテキストとお約束のキャラクター・シチュエーションを,説明しだすと面倒くさくなりそうな構造の物語にうまく生かしている.話がそれほど重くならないのは,繰り返し殺されるのが男だからだろうなw これも成功したポイントのひとつだと思う.
森田季節は何冊か読んできたけどはじめてしっくりきた.良かったです.