深沢仁 『R.I.P. 天使は鏡と弾丸を抱く』 (このライトノベルがすごい!文庫)

R.I.P. 天使は鏡と弾丸を抱く (このライトノベルがすごい!文庫)

R.I.P. 天使は鏡と弾丸を抱く (このライトノベルがすごい!文庫)

「レイン。私の名前はね、アンジェリーナ・レインっていうの」
「……」
戻って来なければよかったと、俺は心から思った。嫌な予感しかしない名前だ。よりによって、レイン()とは──。
「R、E、I、Nだから(rain)とは綴りが違うけど、音は同じ……。雨が嫌いって言われていい気分はしないわね。それで、あなたの名前は? 名前と、あなたが誰なのか教えて」
身を乗り出すようにして訊いてきたアンジェリーナを見て息を吐いてから、俺は答えた。
「フィリップ。フィリップ・リーダス」
俺が誰なのか、俺は知らない。

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15 歳の少女,アンジェリーナはマフィアに狙われていた.そこへさっそうと現れたのは完璧な美貌を持った男,フィリップ・リーダス.成り行きからアンジェリーナを助けたフィリップは,誘拐されたアンジェリーナの妹,ステファニーをともに助けに行くことになる.
第 2 回「このライトノベルがすごい!」大賞優秀賞受賞のハードボイルド.作者は「エセハードボイルド」を目指したとあとがきでいうけど,なかなかどうして,王道のハードボイルドではないかと思うの.地の文が硬いのがはじめ気になったけど,「ポップコーンや水風船が破裂するときのような」笑い方をするアンジェリーナと,謎めいた出自を持つ(しかし記憶喪失ではない)フィリップのふたりはいきいきとしており,じわじわと愛着が湧いてくる.派手さはないけど,ふたりのキャラクターをしっかり描こうとしているのには好感が持てる.
てことで良かったです.読みながら『逃亡のガルヴェストン』ライトノベルレーベルでやるとこうなるのかな,などと思った.「ガルヴェストン」が好きなら読んでみるといいし,逆にこの作品が気に入ったなら「ガルヴェストン」を読んでみるのもいいと思う.