ジャン・トゥーレ/浜辺貴絵訳 『ようこそ、自殺用品専門店へ』 (武田ランダムハウスジャパン)

ようこそ、自殺用品専門店へ

ようこそ、自殺用品専門店へ

「そうですか、うちの末っ子とはちがいますわね……」ルークリースは悲しそうに言った。「あの子は、人生をバラ色に見るんですよ! 当たり前のように! いったいどうしたらそんなふうになるのか、わたしたちにもわかりません。暗い性格のふたりの子と同じように育てたはずなんですけどね。あの子ときたら、いつでも物事を前向きにしか見ないんです」ルークリースは怒りに震える片手を頭上にさしあげながら、ため息をもらした。

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ここは,代々続く老舗の自殺用品専門店.扱っているのはロープ(輪っか作成済み)から毒薬,切腹セット,毒リンゴにタランチュラ.日々訪れる自殺志願者のため,店主夫婦は自殺用品を見繕っては売っている.そんなふたりに産まれた三人目の子どもは,この家に似つかわしくない,前向きで明るい男の子だったからさあ大変.
根暗とメンヘルしかいない一家を襲った未曾有の危機は,前向きな末っ子でした.フランス人作家によるブラックユーモア満載のコメディ小説.日々死にたい死にたいと暗い顔をしている両親と兄姉を前にして,まったく空気を読まない末っ子・アラン.なんとなく,さくらももこの絵柄で脳内再生された.常に顔に縦線が入っている暗い一家に,なぜかバカの山田が紛れ込んでいるという感じ.楽しいのだけど,ブラックユーモアを通り越して悪ノリの領域に入っているのではないか.
断片的にしか語られないのだけど,どうやら世界はすでに崩壊しているらしく,だからこそ自殺用品専門店が成立するということなのだろうなあ.前向きに生きたところで,いいことが待っている気があまりしない.ラストも文字通り受け止めていいのか,ちともやもやするところではあった.2012 年にはアニメーション映画化されるということなので,日本でも公開されるならぜひ観に行きたいな.