大西科学 『晴れた空にくじら3 浮鯨のいる空で』 (GA文庫)

雪平は、ふと大連の風景を思い出して、浮船の向かう空から目をそらし、一瞬だけ目を閉じるぜいたくを味わった。その闇の中で、閃光のように訪れる理解。
そうだ。あそこにあるのは、約束だ。
雪平は目をこすった。自分が涙を流していることに気づく。硝煙に目が痛くなっただけではない。つまりは、約束なのだ。かれらひとりひとりが、いつか交わされた約束に従って、それを守るべきだと思うからこそ、突撃の号令に従って死地に飛び込んでゆく。巨砲弾に命を奪われるその間際まで、持ち場に留まり、定められた手順を守って、砲弾を放つ。

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明治 37 年,ロシアの要衝である旅順を攻略すべく進軍する連合鯨軍.雪平たちの乗る《峰越》もまた作戦に参加していた.その先頭の折,相対することになるロシアの襲撃鯱はかつてクニの家族を墜とした仇だった.
浮鯨のいる世界での戦争,その片隅の話.シリーズ完結.雪平とクニの仇討ちの結末を描ききる.大局はあえて描かず,峰越の乗組員の目から見た戦争の物語という感覚.会話文は一見そっけない感じなんだけど,非常にキレが良くてスイっと入ってくる.良い意味で力が抜けているというか,不思議な落ち着きがあるというか.仇討ちと「約束」をキーワードにしながら,悪者を登場させない終盤の展開はすごく良いと思う.最後まで視点がぶれてなかったってことなのかな.良いクジラ SF でした.