エマ・ドナヒュー/土屋京子訳 『部屋』 (講談社)

部屋

部屋

ぼくたちのベッドルームは「ママのへや」で、それは自立しえんアパートの中にあって、それはアメリカの中にあって、アメリカは世界にくっついてて、世界は直けい 100 万マイルの青と緑のボールで、いっつもぐるぐる回ってる。世界の外がわは《うちゅう空間》で、なんでぼくたちがおちないのかわかんない。ママはじゅうりょくのせいだ、て言う。じゅうりょくは目に見えない力でぼくたちを地面にくっつけとく力だけど、ぼくはかんじれない。
神さまの黄色い顔が上がってきて、ぼくたちはまどから外を見てる。「気がついた? 毎日ちょっとずつ朝が早くなってるでしょ?」ママが言う。

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ジャックはママとふたりで部屋で暮らしている.5 歳になったジャックは,ママからびっくりすることを教えられる.世界には《外》があって,テレビではない本ものがあるという.
「誘拐され、監禁された少女に、子供ができてしまったら…。」(帯より).数年に渡って監禁され続けた母子が脱出を果たし,社会復帰の一歩を踏み出すまでの出来事を,5 歳の男の子,ジャックの視点から描く.第三者から見れば悲惨極まりない事件を,ジャックはどういうものとして受け取ったか.五感のすべてを使って《世界》で起きている出来事を受け止め,言葉にするジャックの表現力は非常に豊か.徹底した 5 歳児フィルターに戦慄する.たまに文法や単語が間違っているのも,原文に忠実に訳した結果らしい.書かれていることをすべて理解しようとすると恐ろしく疲労するのだけど,感情をむき出しにして《外》を受け止めるジャックに知らぬ間に感情移入してしまう.ブッカー賞最終候補作に上がったのも納得の,素晴らしい作品だと思います.