井上堅二 ほか 『ショートストーリーズ 3分間のボーイ・ミーツ・ガール』 (ファミ通文庫)

「当時のスタッフは長い旅路を乗り越えた『はやぶさ』に、せめて最後に地球を見せてあげたいと思ったそうですよ。まぁ、その行為自体にはまったく科学的な意味はありませんね。単なるロマンチシズムです」
そして青木主任は役人を見つめて言った。
「でも私は思うんですよ。ロマンチシズムを忘れた科学は人間を幸せにできないんじゃないかってね……。実生活にメリットのない宇宙開発が、なぜ人間に夢を与え幸せに出来るのか、ちょっとは考えてみてもいいんじゃないかと思うんですがね。どうでしょう」

5400万キロメートル彼方のツグミ

櫂末高彰「お湯を注いで」は,カップラーメンを作っている三分間(ものによっては五分間)だけ姿を現すカップラーメンの精霊との恋(?).のんきでかわいい.
前書き「先輩にリモコンを向けてみた」羽根川牧人「トキとロボット」の二編は「ファミ通文庫×pixiv コンテスト」受賞作.年上の少女型ロボットと少年,恥ずかしくなる直球の表現と共通点は多いのだけど,方向性や雰囲気はまったく違うのが面白い.この二作がこの作品集のベストだと思う.
本田誠「七年前のマリッジリング」タイムリープもの.ややこい話を短いなかできれいにまとめている.
庄司卓「5400万キロメートル彼方のツグミは,はやぶさから数十年後,アドバンス AI を搭載した宇宙探査機ツグミとその開発者の遠距離恋愛(?).ちょっとロマンチックすぎる気もするけどまあそれはそれで.
竹岡葉月「ロイヤルコーポあさひの真実」は,大学から三分の距離にあるアパートで出会った少女の意外な正体.短篇小説ではなく短編漫画として読んでみたい作品.
井上堅二「三分間のボーイ・ミーツ・ガール」.やー,ひどいラストだった.この作者でなければ書けない話ではないかとも思うけど,こんなひどいラストはそう滅多にはお目にかかれないのではないか.
ほかの収録作品は田口仙年堂「3min.30cm」日日日詰め込み教育の弊害と教室の片隅に彼女」庵田定夏「ガチで人生が決まる面接に行ってくる」嬉野秋彦「ねこなぶり」榊一郎「三分間の神様」野村美月「こっちにおいで、子猫ちゃん」綾里けいしネオンテトラのジレンマ」築地俊彦「QとK」はせがわみやび「3分間のABCD……」新木伸「杉宮遥は男前っ!」佐々原史緒「call」田尾典丈「彼女に関する傾向と対策」.FBOnline に発表された作品と書きおろしを合わせた全 19 編のアンソロジー.タイトルは「3分間のボーイ・ミーツ・ガール」なのだけど,実際には「3分間『と』ボーイ・ミーツ・ガール」といったほうが近い.良い作品もあるのだけど,テーマと長さに縛られたような,どこか窮屈な感じのする作品のほうが多かった気がした.タイトルや内容のかぶった作品が多いのも合わせて,編集の責任なのかねえ.