あきさかあさひ 『誰よりも優しいあなたのために』 (一迅社文庫)

誰よりも優しいあなたのために (一迅社文庫)

誰よりも優しいあなたのために (一迅社文庫)

「あたしはね」
シャワーを流す。みまりさんの身体を包んでいた泡が洗い流されて、白い裸身があらわになる。そのゆるやかな曲線の美しさに、私は思わずみまりさんの身体を見つめてしまう。
「不謹慎かもしれないけど。今のままでいられるなら、戦争なんて終わらなくてもいいかもしれない、って思ったりもするんだ。だって、戦争があるから、あたしはメイちゃんたちと一緒にいられるんだもん。どうせ民間の人だって困ってないんだし、あたしたちだって──死なない限りは、そんなに不自由してるわけじゃないしさ。このままずっと『今』が続くなら、それはそれでよくないかな?」

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西暦二〇四九年.突如飛来した宇宙生物によって,人類の九割以上が殲滅された.滅亡目前まで追い込まれた人類は,日本の防衛軍を中心に専守防衛の姿勢を貫くことで細々と生きながらえていた.それから十二年が経った.
舞台は館山の防衛軍第十七小隊.小隊に配属され,はじめて研究所から出てひとと触れあうことを知るサイコドライブ・ブーストの少女メイ・オータムと,同じく十七小隊に所属する神薙みまり一等兵のふたりの物語.メイとみまりの関係の変化を描く,良く言えば非常に優しい,悪く言えば地味な小説だと思う.背景には戦争があるのだけど,そっちの描写はかなりざっくりしたものになっているのは,まあ仕方ないことなのかな(人型ロボットのサイコドライブ・ギアが実は○○だった,という伏線は良かったと思う).悪くはないんだけど,戦争を描くリソースを人間関係に使っていればまた違ったのではないかなー,という気がぼんやりした.