グレッグ・イーガン/山岸真編・訳 『ひとりっ子』 (ハヤカワ文庫SF)

ひとりっ子 (ハヤカワ文庫SF)

ひとりっ子 (ハヤカワ文庫SF)

「きみのいっているのは……数学には、無矛盾性の〈不備〉が、宇宙の始源から散らばっているだろう、ということか? 宇宙に宇宙紐が散らばっているだろうように?」
「そのとおり」アリスンはいかにもなにげなさそうに、ぼくに視線を返した。「時空がいたるところでそれ自身となめらかにつながっていないなら……なぜ数学的論理もそんなふうであってはいけないの?」

ルミナス

相手は平静に答えた。「悪魔などというものはいない。そして神もいないのだ。人間だけが存在する。だがこれは保証しよう。神々の力をもった人間は、かつて想像されたどんな神よりも寛容だと」

オラクル

グレッグ・イーガンの日本オリジナル短篇集第三弾.ナノマシンを使い脳と意識について掘り下げた「行動原理」「真心」.我々が知るものとは別の数学が存在する可能性「ルミナス」.我々が物事を決断するとき,「決断者」はどこにいるのか? 「ふたりの距離」は,様々な形を経て,夫婦の意識が完全にひとつになった時,何が起こるか.エヴェレット分岐した別の未来からやってきた娘「オラクル」多世界解釈と意識,AI の娘「ひとりっ子」.いずれ劣らぬ傑作ぞろい.量子力学ナノテクノロジーなどを使い,人間を掘り下げてゆく物語は,いずれも想像力を刺激し,なおかつ感情を揺さぶられる.それでいて,導かれる結論は,古典的なものも案外多いのが面白いところでもある.陳腐な言い方になっちゃうけど,最先端の寓話というか,これから寓話になっていく話なのかもなーと.