小川一水 『天冥の標 V 羊と猿と百掬の銀河』 (ハヤカワ文庫JA)

「覚えとけ、ザリーカ。昔、おれたちの中の頭のいいやつが、最初に鍬や鋤を発明して以来、ずっと同じことが起こってきたんだ。新しい世界によじ登っては、そこを住めないようにしてしまう、ということをだ」
「なんでそんな風になるの」言ってから、ザリーカは自分の腹の中で疑問を作り変える。
「じゃあなんで農家やってるのよ、パパ。どうせダメになってしまうんなら」
「わからないか?」
タックはザリーカの手をとり、自分の両手で温かく包む。なに、と変な顔をされるが、わからないわけがない、と信じている。
ずっと同じ手で収穫を続けてきたのだから。

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時は西暦 2349 年,小惑星パラス.地下農場を営む農夫のタック・ヴァンディは,農場経営につきまとう様々な悩みと,反抗期を迎えた娘のザリーカに日々煩わされていた.そこに,地球から学者のアニーが農業調査のために訪れてくる.
西暦 2349 年のアストロノーカの悩みは尽きない.タック・ヴァンディの物語の幕間に,紀元前 5999 万 5 千年に誕生したダダーのノルルスカイン物語が挟まれるという変な構成のシリーズ第五巻.折り返しの巻だからか,少し取っ散らかっているかな.次の巻でまとめに入るための助走のための一冊,という感覚.この巻一冊では特に何が完結するわけではなく.個々のストーリーはシンプルで分かりやすく,面白いのだけど,読み終わってみると印象が弱くなってしまうかなあ.