辻成介 『神様の短剣』 (講談社)

神様の短剣

神様の短剣

突然、後ろから抱き締められる。柔らかい感触が僕を覆う。
「手伝う。あなた一人じゃ気の毒だもの」
ミカナルが手を伸ばし、そっと僕の手に触れた。優しく僕の手を赤子の首に誘導する。赤子の首はなんとも言えないくらい、柔らかかった。
「ゆっくりと力を込める。あなたは握ってくれているだけでいいから」
僕越しにミカナルの握力が赤子の首に加えられる。気分が酷く悪かった。涙が出ていた。


やがて、赤子の首がポキリと折れた。

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西暦 2050 年,世界に数百万の天使が降り立った.時間をかけて天使と人間は共存していったが,やがて天使の吐き出す瘴気が人間にとって有害であることが明らかになる.人類は滅亡した.そして西暦 2305 年,汚い納屋で「僕」が生まれた.
天使を殺す役割を与えられた人間と,人間が好きで好きでたまらない天使たちと,彼らすべてを生み出した神の物語.『Powers Selection [新走]』(感想)に ganzi 名義で掲載された「アービアス」が第一章となっている.ポストアポカリプスファンタジーとでも言うのかな.テッド・チャン「地獄とは神の不在なり」をなんとなく思い出しながら読んだ.SF よりはファンタジーの空気が支配的だと思う.理屈やトリックよりも,人間や天使の葛藤に,冷えきった世界を,雰囲気中心で読んでいく小説かな.ラストで明かされるある仕掛けは悪くない.