デイヴィッド・ゴードン・他/早川書房編集部編 『ミステリアス・ショーケース』 (ハヤカワ・ミステリ)

ミステリアス・ショーケース (ハヤカワ・ミステリ)

ミステリアス・ショーケース (ハヤカワ・ミステリ)

「黒人にしろ、白人にしろ、この戦いのおかげでましになった人間なんか、ひとりもいるもんか。俺たちが自由にした奴隷は、行く場所も、食べるものも、土地もない。さっきも言ったけど、この戦争にはもう正しい側なんかないみたいだ。なんでもいいから、とにかく家に帰りたいよ」
「ああ、その気持ちはわかる」ガスはうなずいた。「よくわかるよ」

ライラックの香り

(前略)ぼくは自分の気配を消すために本を読み、スパイが歯の隙間に青酸カリをひそませるように本を持ち歩いた。本を愛する者にとっては、言葉こそが毒となる。ぼくらは一冊の本を閉じるたびに墓穴から這いだし、新たな生命を生きているのだ。

クイーンズのヴァンパイア

ポケミスにて邦訳が発表された作家たちの短篇を集めた,日本オリジナル短篇集.収録される作家は『二流小説家』(感想)のデイヴィッド・ゴードン,『逃亡のガルヴェストン』(感想)のニック・ピゾラット,『ねじれた文字、ねじれた路』のトム・フランクリン&ベス・アン・フェンリイ,『卵をめぐる祖父の戦争』(感想)のデイヴィッド・ベニオフ,『解錠師』(感想)のスティーヴ・ハミルトン,『ローラ・フェイとの最後の会話』のトマス・H・クック,そしてアメリカ探偵作家クラブ受賞作家ダグ・アリンポケミスオールスターというか翻訳ミステリというか,まさにショーケースの趣がある.個人的に好きなのは,ロシア・チェチェンを舞台に,若い兵士の目から戦争を見るデイヴィッド・ベニオフ「悪魔がオレホヴォにやってくる」,かつてのクラスメイトを追うロードノベルニック・ピゾラット「この場所と黄海のあいだ」南北戦争末期の混乱と疲弊をある家族の目から描いたダグ・アリン「ライラックの香り」というあたり.他も良作のそろった読みやすい短篇集だと思うので,軽い気持ちで読んでみればいいじゃない.で,気に入った作家がいたら,それぞれの単著も読んでみればいいじゃない.