赤城大空 『下ネタという概念が存在しない退屈な世界』 (ガガガ文庫)

下ネタという概念が存在しない退屈な世界 (ガガガ文庫)

下ネタという概念が存在しない退屈な世界 (ガガガ文庫)

日本国内において、性的な表現が公私を問わず全面的に禁じられてから十数年。
執拗なまでの法整備と監視システムの確立により、世界で最も健全な風紀を手に入れた日本というキレイな国に、下ネタなんて概念は存在しない。汚らわしいものを排除された子供たちは健やかに幸せに成長し、輝かしい未来を担っていく。
──そういうことに、なっている。

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公序良俗健全育成法》の制定から,全国民が《PEACEMAKER》,通称 PM と呼ばれる小型情報端末を支給されるようになった時代.言動は PM に監視され,下ネタや卑猥な表現物は即座に善導課に取り締まられる,そんな世界.風紀優良校である時岡学園に転入することになった奥間狸吉は,《雪原の青》と名乗るパンツを被った女テロリストに助けられる.
第 6 回小学館ライトノベル大賞優秀賞受賞作.いろいろあった末,テロ組織《SOX》(“セックスの回数が一番多い日は Xマス”の略)の一員として「下ネタのない世界」に対抗することになる狸吉たち.タイトルや表紙から想像する以上のちゃんとした,というか,普通のディストピアもの.《公序良俗健全育成法》,監視用高性能小型端末や,不健全雑誌(“エロ本”と発音すると取り締まられる),代替単語(エロ単語に代わる符牒),相互監視を「自主性」と呼ばせる終盤の展開,性知識の流布を塞いだ結果,歪んだ知識が流通し,存在そのものを危うくする社会.仕掛けはしっかり作られている.ディストピアの勘所はしっかり押さえながら,話運びはギャグもしっかり交えつつ閉塞感は控えめ.ストーリーも文章もかなり安定しているし,良い意味でのライトノベルらしさを主張しているのがポイント高い.ディストピアもの入門編として,ライトノベル読者だけでなく色んな方面のひとが読んでも楽しめるんじゃないかしら.良かったです.